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古い絵画から剥落する絵具もまた有害

バレリーナの動きの一瞬をとらえ、それをパステルの柔らかな色調で表現したのは、印象派を代表する巨匠ドガです。線描を大切にし、大胆で奇抜なレイアウトや対象の瞬間を鋭く捉える優れた独特の目で、初期には歴史画や肖像画、発展期から円熟期には競馬、舞台、踊り子など都会的なモチーフや、日常生活に見られる浴槽など風俗的モティーフを描きました。
パステルは顔料にトラガカントゴムやアラビアゴム(天然ゴムとは異なる植物の分泌物で、造粘剤として使われます) などを混ぜて棒状に固めた画材です。
油絵具と違って乾くのを待たず、上から塗り重ねることができます。このパステルにヒントを得て、大正年間、幼児でも使いやすいようにパラフィンなどを加えてつくられたのが日本のクレヨンです。クレヨンが少し油くらいと感じた人も多いはずです。

ただ、クレヨンは重ね塗りができないので、その後まもなくクレパスが開発されました。クレパスとは日本のクレヨンとフランスのパステルの両方の長所を取り入れたことからのネーミングです。
水彩絵具には透明水彩と不透明水彩とがあります。児童用の絵具は合成染料が使われますが、耐久性が要求される専門家用のパステル、絵具(水彩用、油絵用、日本画用、版画用) には天然の無機顔料が使われます。天然の無機顔料の多くが岩石や鉱物から得ているのは、岩石や鉱物に含まれる金属が絵具の色に関係してくるからです。これらの絵具の中には、かなり毒性の強い金属を含むものがあります。古い絵画からはげ落ちる絵具の破片にも注意したほうがいいでしょう。

ハンダは有害物質

高分子化合物と合金

重要な手紙を配達途中で覗かれないように、かつて欧米では、ろうで封印して、印章を押す習慣がありました。これを封蝋(ふうろう) といいます。ろうで封印をするのがその当時のセキュリティとしては、有効だったのでしょう。

シュラック(ラックカイガラムシの分泌物)などの樹脂を精油で溶かして顔料などを混ぜたものが使用されていますが、昔はミツバチの巣からとった蜜ろう(高級脂肪酸とアルコールの固形エステル) が用いられました。
ろうを漢字で蝋と表記するのは、元々昆虫に由来する物質だったからです。なお、化粧品のクリーム剤としても使われるパラフィンというろうは、皮膚を刺激して発疹などのアレルギーを起こし、またパラフィンガンと呼ばれるガンの引き金となったりすることもある危険な物質です。
こうした有機化合物とは別に、金属材料を接合する合金もロウと呼び、鍼と書きます(ここでは区別するため、蝋= ろう、鎖= ロウと表記することにします)。金属を接合するロウの代表例はハンダです( ハンダを半田と表わすのは当て字ではありません。語源は地名とも人名ともいわれます)。
一般的なハンダは鉛とスズの合金で、融点が低いので電気ゴテや焼きゴテで簡単に溶かすことができます。ハンダが鉄や銅などの金属を接合するのは、スズ原子が鉄や鋼の金属結晶のすきまに入りやすいからです。したがって、スズの含有量が多いほど接合性がよくなりますが、最も低い融点(183度)を示すのは鉛38%、スズ62%のハンダです。

貴金属による皮膚炎は微量有害金属によるアレルギーか?

スズ・鉛にその他の金属を加えたハンダは、特殊な用途に使われます。たとえばカドミウムを加えたものは耐熱性にすぐれ、インジウムを加えたものは耐アルカリ性にすぐれます。金を接合するための金ロウは、金・銀・銅・亜鉛を主体とした合金、ブロンズ(青銅) などを接合するための銀ロウは、銀・鋼・亜鉛などを主体をした合金ですが、いずれも少量のカドミウムを含みます。イヤリングや指輪など、皮膚に接触する貴金属で金属アレルギーが生じるときは、微量の有害金属が原因とも考えられます。ネックレスをつけるとじんましんのようなものが首周辺にできるのは、アレルギーです。

メッキは安全か?

危険な薬品が使用される化学メッキ

メッキはもともと減金がなまった日本語です。飛鳥寺、東大寺といった歴史ある大仏には、建立当初は金メッキが施されていました。当時のメッキ方法は、金を水銀に溶かしたアマルガム(合金の一種)として、それを製造されたドウに塗布してから熱で水銀を蒸発させ、金だけを残す焼き付けメッキという方法でした。これを鍍金といいます。メッキとも呼ばれるのは、アマルガムとなったとき金特有の色がなくなり、減金すなわち金がどこかへ消え失せたかのように思えるからです。

メッキの種類

  • 伝統的な鍍金…水銀とのアマルガムによる焼き付けメッキ。
  • 熔融メッキ…アルミニウム、スズ、亜鉛など融点の低い金属を鉄などにメッキするには、熔融メッキが行われます。鉄に亜鉛メッキしたものが、トタン、スズメッキしたものがブリキです。
  • 電気メッキ…メッキする金属を含む水溶液にメッキされる金属を電極として直流電流を流すと、陰極となるメッキされれる側の金属表面に、金属塩の薄い層が形成されます。この電気化学反応を利用したのが電気メッキです。
  • 化学メッキ…水溶液中の化学反応によってメッキする方法。電気メッキよりも時間がかかりますが、プラスチックやガラスなど、金属以外の材料にもメッキできるのが特徴です。ただし、化学メッキにも青酸カリや青酸ソーダ、ホルムアルデヒドなどの危険な工業薬品を使用します。

金属加工による金属ヒューム熱

金属加工の際の煙が害に!

真鍮細工を行う職人には、亜鉛熱と呼ばれる難病が知られていました。近年では、これは金属ヒューム(煙霧)の吸入によって起こる金属ヒューム熱(金属熱、鋳工熱)とも呼ばれる急性の中毒症状)の一種であることが判明しています。

症状としては、金属ヒュームを吸入して数時間後に、せきや胸の圧迫感、違和感などの呼吸器系の異常、発熱、口渇感、筋肉痛、頭痛、倦怠感、知覚異常などがあらわれ、それが2~3日ほど続きます。
メカニズムは、不明ですが、たんぱく質中のSH基は金属と結合しやすい性質をもっており、肺組織に金属たんぱくができると、それを異物としてアレルギー反応が起きるようです。

従来は、安全で無害と思われていた鉄やステンレスの切断でも、金属ヒューム熱を発症することがあります。工具などが便利になり、近所のホームセンターでも購入できるようになり、鉄やステンレスの切断でも金属ヒューム熱を発症することがあるのです。

金属製品の切断、溶接の際に生じる煙は、危険物質なので吸入しないようにしなければなりません。また、メッキ、溶接、金属切断、化学処理など、恒常的に金属ヒュームにさらされる労働環境では、しだいに体内に金属が蓄積し、金属ヒューム熱とは別の慢性中毒を引き起こします。
作業環境においては、換気、マスクなどの着用、定期的な汚染濃度の検査などの対策が必須です。一過性のアレルギーにとどまらないところが金属中毒の危険なところです。

金属ヒュームの種類

  • 亜鉛ヒューム…事故数、死亡者数ともに多いのが亜鉛ヒュームによる中毒です。現在は真鍮加工よりも亜鉛メッキ綱板・綱管の切断や溶接の際に発症しています。
  • カドミュウムヒューム…各種の合金の中には、カドミウムが添加されているものがあります。こうした合金を切断、溶接したときカドミュウムヒュームが発生。微量でも中毒症状を引き起こすので注意が必要です。
  • 水銀ヒューム…水銀は公害でも問題になった物質で、気化しやすく、加熱により空気中に充満すると肺から入り人体を汚染します。消化管からの吸収はほとんどありませんが、水銀蒸気の肺からの吸収率は8割以上になります。水銀や水銀を含む製品の取り扱いは注意が必要です。
  • 銅ヒューム展銅板や銅管などの切断は行われていますが、高速回転でのカッターやドリルなどを使うと高熱により銅ヒュームが発生します。銅ヒュームは亜鉛ヒュームと似たような中毒症状を引き起こします。

天然だからこそ発症するラテックス・アレルギー

アメリカでは、数十人が死亡している

ゴムノキの樹皮を傷つけることで採れる白い樹液は、天然ゴムの主成分(ポリィソプレン)の微粒子が、水中でコロイドとなって安定分散した物質。これをラテックといいます。

日常的にゴム製品に触れていると、手がかゆくなったり、発疹ができたりといったアレルギー症状があらわれることがあります。これまでゴムアレルギーは、接触性皮膚炎とみなされ、主として合成ゴム製品の製造過程で人為的に添加される加硫剤や、硬化剤などが原因物質として考えられてきました。

ところが、近年、ゴム手袋やゴム製シートなど、天然ゴム製品におって過敏かつ激しいアレルギー症状を示し、ひどい場合は、アナフィラキシーショックを起こし、死亡するというケースがあることも確認されました。

これは、接触性皮膚炎とはタイプの異なる即時反応型のⅠ型アレルギーで、広い意味のゴムアレルギーから区別して、特にラテックスアレルギーと呼ばれます。アメリカでは初の症例が1979年に報告されて以来数十人が無くなっています。

原因物質はブラックボックスのまま

即時反応型のⅠ型アレルギーの出現は、継続的にゴム製品に接触して、体内に監査状態が作りあげられていることを意味します。そのためラテックスアレルギーの患者の多くは、日常的に天然ゴム製品に接触せざを得ない、医療従事者にアレルギー性じんましんが起きるものです。

さらに、鼻炎、ぜんそく、アレルギー性鼻炎などの症状があらわれるのは、ゴム手袋から舞い上がるパウダーがラテックス粒子のキャリアーになっているからだとみられています。

一方、ラテックスアレルギーの被害を受ける特定の病気を持つ人たちとは、排尿困難のために尿路にカテーテルを留置しているなど、皮膚や粘膜を通してラテックスに対する感作状態ができてしまった患者のことです。

アレルゲンとなっているのは、天然ゴムに不純物として含まれる多種多様なたんぱく質であると考えられていますが、今のところ特定されていません。
天然ゴムだから安全だという固定概念は捨てなくてはならないということでもあります。また、天然の不純物もまだまだブラックボックスのままです。

花粉症の原因になる金属アレルギー

皮膚炎には刺激性のものとアレルギー性のものとがある

皮膚炎とは字のとおり、皮膚の炎症のこと。症状としては、赤く腫れる、熱い、痛い、かゆいという4つの兆候があります。

刺激性皮膚炎

酸、アルカリなど、刺激性のある物質が皮膚を直接刺激するこで起きる炎症です。刺激性の弱い物質でも、繰り返し刺激されれば炎症を起こします。

アレルギー性接触性皮膚炎

遅延型アレルギーの一種で、アレルゲンとなる原因物質が皮膚から浸入すると人体に抗体がつくられ、そののち再び物質が接触すると、そこに発疹などの皮膚炎を引き起こします。

核細菌に対する免疫ができるかを検査するツベリクリン反応は、接触性皮膚炎のアレルギー反応を利用したもので皮膚に注射されるのは、結核細菌の培養液の上澄みです。免疫ができていれば、この抗原に対して抗体が反応して、皮膚に発赤が現れます。

陰性の場合は、結核菌に感染しやすい状態にあるので、BCGを注射して人為的に免疫をもたせます。

医薬品や化粧品による皮膚炎について

指輪やイヤリング、ピアスなどによる皮膚炎にも刺激性のものとアレルギー性のものがあります。はじめて接着したり、サイズがあわないときに生じるのは、刺激性皮膚炎です。
しかし、痛みよりも痒みを伴うような発疹などが出た場合には、アレルギー性接触性皮膚炎の可能性があります。
入れ歯や虫歯治療でかぶせられる金属によるアレルギーも知られています。

さらに金属アレルギーが金属中毒と異なるのは、きっかけになる金属の量がごく微量であることです。同じ製品を使用しても全くアレルギーが起きない人もいるのです。

大気中に含まれる微量の金属が花粉症やその他のアレルギー性疾患の引き金の役割をしているという専門家もいます。しかし、原因となる微量金属の特定が困難で発症の仕組みは詳しくわかっていません。